刑法各論

刑法各論シリーズ 第16回 〜財産罪〜 背任罪 247条

以下に、背任罪を見て行きます。

背任罪(247条)

他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り、又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。


 

⑴構成要件:

①「他人の為にその事務を処理する者」が

②「任務に背く行為」をして

③「本人に財産上の損害を加えた」こと

④「自己もしくは第三者の利益を図り」または「本人に損害を加える」「目的」

=「図利加害目的」

 


 

  • 事務:財産上の利害に関する仕事一般

事務に裁量性がなければ任務違反とならないから、本条の事務は包括的なものであることが必要であり、機械的事務は含まれない。

 

  • 背任行為

a 権限濫用説→行為者が有している代理権を濫用する行為(粉飾決算等)

b 背信説(通説)

→誠実な事務処理者としてなすべきものと期待されるところに反する行為

c 背信的権限濫用説

→行為者が事務処理上有している権限を濫用する行為


 

③「財産上の損害」

→全体財産の減少

既存財産の減少(積極的損害)、将来取得すべき利益の喪失(積極的損害)の双方を含む。

 

<背任罪における財産上の損害の判断基準>

「事例」銀行の支店長Aが返済の見込みが無いのにもかかわらず無担保で300億円を貸し付けた。

1  法的損害概念説:損害の有無は法的見地から判断する

事例の帰結:300億円の現金の代わりに同額の債権が発生するので、法律的には損害は無い。

2  経済的損害概念説(判例):損害の有無は経済的見地から判断する

事例の帰結:返済の見込みの無い債権は経済的に価値が無いから、経済的には損害が発生している。

 


 

  • 図利加害目的

「利益」とは、財産上の利益のみならず、地位や信用を維持する等の身分上の利益をも含む。

<目的の内容>

背任罪の図利加害目的が有るという為には、いかなる内心的事情であることを要するか。そもそも、「目的」を要求した趣旨は、故意とは別個の主観的要件を要求する点にある。このような趣旨からすると、図利加害目的がある、という為には、未必的認識にのみならず確定的認識が必要であると解する。

ただ、法益保護の観点から、本罪の成立範囲を限定しすぎないため、意欲・積極的認容までは要しないと解する。

 


 

⑵ 二重抵当

「事例」甲は自己所有の家屋について、債権者Aとの間で抵当権設定契約を締結し、抵当権設定に必要な書類を交付したが、未登記のうちにBから融資を受けるためBと同一家屋につき第一順位の抵当権設定契約を締結した。

 

1 甲に背任罪が成立するか。2 まず、甲は「他人のためのその事務を処理する者」といえるか。不動産に抵当権を設定した者が抵当権の登記に協力する行為は、「他人の」事務(247条)にあたるかが問題となる。確かに、かかる行為が自己の財産処理を完成する事務としての一面を有することは否定できない。

しかし、抵当権設定の登記に協力する行為は、主として相手の財産権保全のための事務である以上、「他人の」事務にあると解する。

3 では、甲に任務違背行為は有るか。甲がAに登記に必要な書類をすべて交付していたことから問題となる。

思うに、設定者は抵当権者が第一の抵当権設定登記をするまでその地位を保全すべきであるから、甲がたとえAに登記に必要な書類を交付していたとしても、Aが登記完了する以前の時点で甲がBに対する登記を完了した時には、抵当権保全義務に違反するものとして任務違背行為となると解する。

4 では、「財産上の損害」があるといえるか。

この点、背任罪における「財産上の損害」とは全体財産の減少をいい、それは経済的見地から判断すべきであると解する。

そして、抵当権の順位は当該抵当物件の価額から、どの抵当権が優先して弁済を受けるかの財産上の大きな利害に関する問題であり、一番抵当と二番抵当では経済的価値においておおきな違いが有る。

よって、一番抵当権を後順位の二番抵当たらしめたことは、「財産上の損害を加えた」にあたると解する。

5そして、甲は自己がBから融資を受ける目的でかかる行為を行っていることから、甲には、「自己」の「利益を図る」目的があったと言える。

6 以上より、甲に背任罪が成立する。

補足:Bに対する詐欺罪も問題となるが、判例・通説は詐欺罪の成立を否定している。

 


 

⑶横領と背任の区別

「事例」

銀行の支店長Aが明らかに回収不能であると分かっていながら担保も取らずに銀行名義で甲会社に金員を貸し付け、同社から諸例をもらった。業務上占有する金員を横領したとも、任務に背いて銀行に損害を与えたとも言えそうであるが、どちらが成立するか。

1 権限の逸脱か濫用かによって区別する説

他人のための事務処理者が自己の占有する他人の物を不法に処分した場合、横領罪(252条1項)と背任罪(247条)のいずれが成立するか。横領罪と背任罪の区別が問題となる。まず、両罪は同じく委任信任関係に背くという点で共通しているのにも関わらず、横領罪の方が背任罪に比べて法定刑が重いのは、その客体ではなく、行為態様における違いに基づくものと考えるべきである。すなわち、両罪の区別は、占有物の処分が一般的・抽象的権限を超えたものであるかによって画するのが妥当である。

なぜなら、当該委託信任関係違反行為が行為者の一般的・抽象的権限の範囲内のある場合には職権の濫用であり、権限を逸脱した場合に比べて法定刑を軽くすることも合理性を有するからである。

したがって、権限濫用が背任罪で、権限逸脱が横領罪であると解する。

そして、範囲内であるかについては、原則として外形上一般的・抽象的範囲内であるか否かによって判断すべきであるが、例外的に、委託の趣旨から絶対に許されない行為については、一般的・抽象的権限の範囲内であっても実質的には権限逸脱に他ならないので横領になると解する。

2  判例

本人の名義・計算で行われた場合は背任、自己の名義・計算で行われた場合は横領とするのが主流。もっとも、名義・計算のいかんを問わず、権限逸脱の場合に横領とした判例もあり、判然としない面がある。

 

補足:横領罪と背任罪は法条競合の関係(1つの犯罪が複数の場合に当てはまる)にあり、横領罪が成立すれば背任罪は成立しない。そのため、この問題は横領罪の成立範囲の問題に帰着する。答案では、横領罪の成否を先に検討し、否定されれば背任罪の成否の検討すれば足りる。したがって、この論点をあえて書く場合はほとんどないと思われる。

 

本人の利益・・・・無罪

それ以外・・・・・本人名義→本人計算・・・背任

→自己計算・・・横領

・・・・・自己名義→横領

 

となる。

結局判例の見解でも、学説でも結論は同じになるので、どちらでも構わないと思われます。

 

本日は以上です。

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